プレゼンティーズムとは?
プレゼンティーズムとは、従業員が健康問題(身体的または精神的な不調)を抱えながら出勤し、本来の能力を発揮できない状態のことを指します。単に職場に存在しているだけでなく、健康問題により業務遂行能力が低下している点が特徴です。
これに対して「アブセンティーズム」は、健康問題を理由とした欠勤や休業を意味します。アブセンティーズムは勤怠記録として把握できる「目に見える」損失であるのに対し、プレゼンティーズムは出勤しているために表面化しにくい「目に見えない」損失として現れます。
日本企業における深刻な影響
日本企業においてプレゼンティーズムが与える経済的影響は甚大です。研究によれば、企業の健康関連コストの中でプレゼンティーズムが占める割合は、直接的な医療費やアブセンティーズムによるコストを大幅に上回ることが示されています。
日本企業におけるプレゼンティーズムの経済損失は年間約3.8兆円とも言われており、この「隠れたコスト」が企業の生産性に大きく影響しています。中小企業を対象とした調査では、一人当たりの平均プレゼンティーズムコストはアブセンティーズムコストの約20倍に達するという衝撃的な結果も報告されています。
主な要因と背景
健康関連要因
- 筋骨格系の問題: 腰痛や肩こりは日本の労働者に非常に一般的であり、特に長時間のデスクワークや不適切な作業姿勢、特定の業務に従事する人々に多く見られます
- メンタルヘルス不調: ストレス、不安、抑うつといった精神的な不調は、集中力や意欲の低下を招きます
- 睡眠不足・睡眠の質低下: 不十分な睡眠は日中の眠気や判断力の低下につながります
- 生活習慣病: 高血圧、糖尿病、脂質異常症など
- 女性特有の健康問題: 月経前症候群(PMS)、月経困難症、更年期障害など
職場環境要因
- 長時間労働: 過労や睡眠不足を招き、心身の健康に悪影響を与えます
- 過重な業務負担とプレッシャー: 過剰な業務量や厳しい納期など
- コミュニケーション不足と人間関係の問題: 上司や同僚との関係、ハラスメントなど
- 不適切な物理的環境: デスクや椅子の高さが合わない、適切な休憩スペースの欠如など
文化的・社会的影響
- 「我慢」の文化: 困難や不調に耐えることを美徳とする文化的価値観
- 仕事優先の価値観: 個人の健康管理よりも仕事を優先させる傾向
- 同僚への配慮(迷惑意識): 自分が休むことで同僚に迷惑がかかることを懸念
- メンタルヘルスへの偏見: 精神的な不調に対するスティグマ
プレゼンティーズムの測定方法
プレゼンティーズムによる労働生産性の低下を定量的に把握するため、いくつかの測定方法が開発されています。日本では主に以下のツールが活用されています:
測定ツール | 設問数 | 特徴 |
---|---|---|
WHO-HPQ | 3問 | 国際標準、信頼性・妥当性の検証が進んでいる |
SPQ(東大1項目版) | 1問 | 非常に簡便、回答者負担が少ない、最も広く利用されている |
WLQ | 25問 | 業務遂行上の具体的な困難さを多角的に把握できる |
WFun | 7問 | 日本で開発、医学的症状や休職リスクとの関連性が示されている |
特に中小企業では、その簡便さから**SPQ(東大1項目版)**が多く活用されています。この方法は「病気がないときの出来を100%とした場合、現在はどの程度働けていますか?」という単一の質問で、プレゼンティーズムを数値化します。
効果的な対策戦略
健康経営の取り組み強化
- 経営トップのコミットメント: 健康を戦略的投資として位置づけるリーダーシップ
- 健康目標の経営戦略への統合: 健康に関する目標を事業目標や人事評価と連動
- データに基づいたアプローチ: 健康診断やプレゼンティーズム調査の結果を統合的に分析
- ヘルスリテラシーの向上: 従業員が健康に関する適切な知識を持つための教育
職場環境の改善
- 働き方改革の推進: 長時間労働の是正、有給休暇取得の促進
- コミュニケーションとサポート体制の強化: 定期的な1on1ミーティング、相談窓口の設置
- 物理的環境の整備: 人間工学に基づいたオフィス家具の導入、適切な休憩スペースの確保
- 健康を重視する文化の醸成: 体調不良時に気兼ねなく休める雰囲気づくり
ターゲットを絞った健康介入策
- 筋骨格系の健康: 専門家による作業姿勢指導、職場でのストレッチ推奨
- メンタルヘルスサポート: ストレスチェックの活用、相談窓口の設置
- 生活習慣改善プログラム: 禁煙支援、食生活改善支援、運動習慣化支援
- 睡眠改善への取り組み: 睡眠セミナー開催、長時間労働の是正
テクノロジーの活用
- 健康管理システム: 健康データの一元管理と分析
- ウェアラブルデバイス: 歩数、心拍数、睡眠パターンなどの継続的モニタリング
- 健康アプリ・オンラインプラットフォーム: セルフチェックツール、ゲーミフィケーションの活用
- 遠隔医療・オンライン相談: 産業医や保健師とのオンライン面談
ステークホルダー別の行動提案
大企業向け
- 健康経営への継続的投資と効果測定の徹底
- 職場環境の改善と健康文化の醸成
- 成功事例の積極的な共有とサプライチェーン全体への波及
中小企業向け
- 地域産業保健センターなどの外部資源の積極活用
- SPQ(東大1項目版)などの簡便な測定ツールの導入
- コミュニケーション改善や基本的な職場環境整備など、低コストで実施可能な対策から着手
管理職・人事担当者向け
- 部下の健康状態に関する感度の向上
- 定期的な面談と適切なフォローアップ
- 柔軟な働き方の推進と業務量の適正化
成功事例
A社(IT企業、従業員500名)
SPQ(東大1項目版)による測定を導入し、全社的な「健康チャレンジ」プログラムを実施。特に腰痛・肩こり対策に重点を置き、オフィス環境の改善とエルゴノミクス教育を行った結果、プレゼンティーズムによる損失が23%減少、社員満足度が15%向上しました。
B社(製造業、従業員120名)
地域産業保健センターと連携し、産業医による健康相談と職場巡視を定期的に実施。メンタルヘルス研修と管理職向けのラインケア教育を導入した結果、プレゼンティーズムスコアが改善し、欠勤率も低下しました。
まとめ:三位一体のアプローチが鍵
プレゼンティーズムという複雑な課題に対する最も有効な処方箋は、以下の三位一体の取り組みにあります:
- 個々の従業員の健康支援
- 働きがいのある安全な職場環境の整備
- 健康を尊重し支え合う組織文化の醸成
少子高齢化に伴う労働力人口の減少や働き方の多様化を背景に、従業員の健康を維持・増進し、生産性を最大化することの重要性は今後ますます高まるでしょう。健康経営は、単なる福利厚生ではなく、企業の持続的な成長と競争力強化のための重要な経営戦略なのです。
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参考文献