2040年介護危機を乗り越える!介護事業所のための未来戦略と実践ガイド

はじめに:2040年問題とは何か?

日本の介護業界は大きな転換点を迎えています。2040年には65歳以上の高齢者人口がピークを迎え、特に介護と医療の複合ニーズを抱える85歳以上の人口が大きく増加します。さらに認知症高齢者の増加や独居高齢者の急増も予測されています。

一方で、支える側の現役世代は減少の一途をたどり、介護人材の確保はますます難しくなっています。介護関係職種の有効求人倍率は既に4.13倍(令和7年2月時点)と、全産業と比較しても極めて高い水準で推移しています。

厚生労働省が令和7年4月に発表した「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」中間とりまとめから、介護事業所が今すぐ取り組むべき実践的な戦略をご紹介します。

目次

  1. 介護事業所が直面する2040年の現実
  2. 人材確保のための最新戦略
  3. 生産性向上のための実践ポイント
  4. 経営改善と協働化で持続可能な事業運営を
  5. 今すぐ実践!3つのアクションプラン

 

1. 介護事業所が直面する2040年の現実

地域によって異なる需要変化

2040年に向けた介護需要は地域によって大きく異なります。

  • 中山間・人口減少地域:サービス需要が既に減少局面に入り、サービス維持が課題
  • 大都市部:2040年以降もサービス需要が増加し続ける
  • 一般市等:当面需要が増加し、その後減少に転じる

介護事業所の経営課題トップ3

介護事業所が抱える最大の課題は以下の3点です。

  1. 人材の確保・定着
  2. 収益の確保・経営の安定化
  3. 業務の効率化・生産性向上

特に注目すべきは、介護事業所の約6割が採用のうまくいく理由として「職場の人間関係がよいこと」を挙げている点です。一方で、前職をやめた理由のトップは「職場の人間関係の問題」(約3割)となっています。

 

2. 人材確保のための最新戦略

処遇改善の徹底活用

令和6年度の介護報酬改定では、処遇改善加算が一本化され加算率も引き上げられました。さらに、令和7年度からは要件の弾力化により取得しやすくなっています。この機会を活用して、職員の賃金アップを実現しましょう。

業務の切り出しとタスクシェア

専門知識が不要な業務(掃除、配膳、ベッドメイキングなど)を「介護助手」へ切り出すことで、介護職員は本来の専門業務に集中できます。これにより、ケアの質向上と職員負担軽減の両立が可能になります。

人材確保・定着の実践ポイント

  • 介護の入門的研修の活用で多様な人材を確保
  • 登録ヘルパーの常勤化支援で働き方の幅を拡大
  • 地域の高齢者を介護助手として積極採用
  • キャリアラダーの整備と明確な成長モデルの提示
  • 各種ハラスメント対策(カスタマーハラスメント含む)の徹底
  • 職員のライフステージに合わせた柔軟な勤務体制の構築

外国人材の活用

外国人介護人材の活用も重要な選択肢です。日本語支援、就労・生活環境の整備など、地域の実情に応じた受入体制の整備が進められています。自治体の支援制度も多く設けられていますので、積極的に活用しましょう。

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3. 生産性向上のための実践ポイント

テクノロジー導入の目標と優先順位

介護分野におけるKPIでは、2029年までにテクノロジー導入率90%を目標とし、2040年までに施設系サービス等において約3割の効率化を目指しています。

設備導入の優先順位(効果順):

  1. 見守りセンサー + インカム連携
  2. 介護記録ソフト・ケア管理システム
  3. ケアプランデータ連携システム

ロードマップ策定のポイント

  1. 現場の課題を明確化してから機器選定
  2. デジタル中核人材の育成・配置
  3. 導入→定着→発展のステップを計画

財政支援を活用しよう

  • 地域医療介護総合確保基金による導入支援
  • 生産性向上を評価する新たな加算(令和6年度改定)
  • 都道府県の介護生産性向上総合相談センターによる伴走支援

小規模事業所でもできる生産性向上

  • まずは介護記録ソフトから始める
  • 複数事業所での共同導入でコスト削減
  • 都道府県相談窓口での試用貸出制度を活用
  • AI技術の活用(記録やケアプラン作成の支援)

重要なのは、テクノロジー導入は単なる業務効率化ではなく、直接ケアの時間を増やし、サービスの質を向上させることが最終目標という点です。

4. 経営改善と協働化で持続可能な事業運営を

事業者間の協働化・連携

小規模事業所の生き残り戦略として注目されるのが「協働化」です。バックオフィス業務の共同化により、年間20%のコスト削減に成功した事例も報告されています。

協働化のメリット:

  • 離職率低下、有資格者の確保
  • 施設・設備の共同利用
  • 資材・物品等の一括仕入れによるコスト削減
  • 採用チャネルの共有と多様化
  • 共同研修による質の向上

社会福祉連携推進法人の活用

2040年に向け、地域のサービスを維持するための「社会福祉連携推進法人」制度が注目されています。複数の法人が組織的に連携し、間接業務の効率化や施設・設備の共同利用、人材確保・育成などを協働で実施する仕組みです。

経営支援を活用しよう

  • 介護サービス事業者経営情報を活用した経営分析
  • 都道府県のワンストップ相談窓口の活用
  • よろず支援拠点等の専門家による経営診断
  • 福祉医療機構(WAM)による資金融資

地域のニーズ変化を見据えた早めの経営戦略の見直しが重要です。

 

5. 今すぐ実践!3つのアクションプラン

1. 現状分析と地域ニーズの把握

  • 自施設の5年後の需要を分析(地域介護保険事業計画を参照)
  • 介護サービス事業者経営情報を活用した経営分析
  • 職員の声を収集し、優先課題を整理

2. 近隣事業所との連携構築

  • 共同で実施できる業務領域の洗い出し
  • 研修・採用活動の共同実施の可能性検討
  • 社会福祉連携推進法人の活用検討
  • 人材のシェアリングの仕組み構築

3. テクノロジー導入計画の策定

  • 都道府県の介護生産性向上総合相談センターへの相談
  • 補助金・加算の活用計画作成
  • 優先度の高い機器から段階的導入
  • デジタル中核人材の育成計画策定

まとめ

2040年に向けた介護サービス提供体制の変革は、一筋縄ではいきません。しかし、地域のサポート体制を最大限活用し、事業者同士が連携することで、持続可能な介護サービスの提供が可能になります。

人材確保、生産性向上、経営改善の三位一体で取り組むことで、どのような地域でも質の高い介護サービスを提供し続けることができるでしょう。

厳しい時代だからこそ、今すぐ行動を起こし、2040年に向けた準備を始めましょう。

 


【参考資料】
厚生労働省「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」中間とりまとめ(令和7年4月)